ラーメン屋みたいだな 180910 [缶次郎]
週末、恋人と海へ鳥を見に行った。
久々の休みだった。楽しみにしていたので結構しっかり下調べをして向かった。
鳥がよく来る時刻、潮の満ち引き、学名、鳥がそこに来る理由、近くの電車、歩行ルート、食事etc.etc.……
わりとこういうのを調べるのは好きなので、ざっくりノートにまとめた。
とはいえ、字を書くのが億劫であまりノートに書き込むことは好きではない。
そもそも長々とした文を手書きするとただ写すだけになってしまいあまり頭に入らない気がする。
だからこういうメモは要約して思い出すための手掛かりだけ記入しておく方が良い。たくさん書くと目が滑るし。スピーチ原稿もキーワードだけ書いておく方が口が回るし……
等と。
自らの横着を正当化するのは得意だ。
なのでノートにはこんがらがりやすい単純な数字、営業時間や電車のホーム等、覚えづらいことだけ記入した。
こういう計画をたてるとき、予算や所要時間はかなり余裕をもってつくってしまう。
どうせ恋人も自分も時間に頓着がないのでそれでもぐだぐだになるだろう。
リカバリーするための前後の電車の時間も記入する。予定をすっ飛ばしたときのルートもだいたい考えておく。
実行しない"捨て予定"をたくさん考えておくと便利だ。
捨て予定にしろ、複数の時間設定にしろ、はじめから選択肢を増やしておくと気が楽だ。時間を気にしないくせに、時間に追われるのはかなり苦手だからだ。
ともあれ先のことを考えると嫌になるので、基本的に予定は立てたくない。
当日は結局恋人は朝寝坊したので午前はのんびりして夕方の渡来に期待した。かくいう自分もあまり起床には自信がなかったので、事前に野鳥観測団体が朝夕定時観察している時間を両方確認していた。その時間に合わせる。
海岸へ向かう。
いろいろと調べているときに近くに練り物屋があることを知った。
HPや他サイトの記事を熟読すると、原料や製法にかなりこだわっているらしい。
どうしても行きたかったので恋人に最優先で向かうことを提案した。以前、後回しにしている間に楽しみにしていた和菓子が売り切れたことが脳裡をよぎったからだ。
駅からしばらく坂を下るとGoogleマップのアナウンスが目的地付近であることを教えてくれた。
次にいつ行くかもわからない場所だったのでとりあえず全種類買おうと一人意気込み、思ったより厳かな店構えにしり込み、期待に緊張が混じる。
意を決し入店するといらっしゃいませと言うが早いか、フランクながらも丁寧な(しかしかなり早口の)おばちゃんが
「ごめんなさい~!今日さつま揚げは切らしてて~!あっでも近くの××で17時から売ってますのでね~!」
と一息に教えてくれる。
そうなんですか と返す。
首から下げた大きなカメラをみて観光客と判断されたのか、そもそも観光客ばかりなのか、おばちゃんは続ける。
「これ!今日売り切れなので100円券!うちでしか使えないけど!また○○に遊びに来てくださいね!」
おばちゃんはニコニコとしている。券を受け取る。
言葉を聞きながら、なるほどその台詞はちょっと粋だな、とおもった。
この券を使う日は来ないとしても。
包みを受け取り店を出た。
おばちゃんに手渡されたクーポン券を見つめる。
でかでかと「百円券」と3文字が縦書きされた名刺大の紙切れ。
一拍置いた後、恋人と口を揃え「なんか……ラーメン屋みたいだな」とつぶやいた。